【伝奇】
蒼)いつものようにレンタルスペースに行くと、珍しく鍵が開いていなかった。 おやおや誰かが放置し忘れてしまったのだね、 という不可思議な日本語を思い浮かべながら僕は合鍵でもって扉を開いた。 中で、妹が死んでいた。
透)伝奇ということなので誰かが殺されるのだろうと思ってはいたが、 初っ端自分だとは思ってもみなかった。しかも兄の手にかかり、描かれることになろうとは。 此の侭では出番無く終わってしまう。 仕方ないので幽霊という非科学的事象になって活き続けるという姑息な手段に出ることにした。 それにしても、誰が是を殺したのだろう。
継)「此処はいつものオチで、パシリーダー宗様が犯人ということでよいかと」 牧村氏に続いてレンタルスペースにやって来たアッシはそんな風に提案してみた。 使い勝手は悪いが、使い易い奴がいるっていいなと、アッシは改めて思った。
直)「成程。論理的展開ですね」 ミハルさんとほぼ同時にレンタルスペースへと着いた乃公も其れに同意して、事件は決着しました。 それにしてもこれでは伝奇ではなく、密室殺人事件ではないのでしょうか。
宗)「ぃゃをぃ、激マテッ!!」 拙者がレンタルスペースに着くと、その拙者が犯人だという殺人事件が発生・決着していた。 そしてそのまま冤罪事件が確定しそうになっていたので、慌てて拙者はツッコミを入れた。 まぁ、ぶっちゃけ無駄な足掻きっぽかったが、 それでも拙者はやってない。
蒼)主要な登場人物が揃ったところでパクリーダーの存在を無視し、 僕は新たな持論を展開し始めた。 「確かに普段ならそれで良いと私も思うのですが、今回殺害されているのは私の妹なのです。 ……流石にその犯行の犯人が彼だというのは些か無理がありませんか。能力的な問題はおいておいて、 心理的な部分で、彼が妹を殺せるとは思えない」 何より死姦の様子が無いのでという言葉を飲み込み、私は彼の無罪を主張した。
透)いやん。おにいたまやっさすぃ。 うふふと笑い、是はおにいたまに、 一生憑いていくことを決めた。
継)悪寒がした。ていうか透加ちゃんいますやんとかを思ったが、誰もそれに気付いた様子はなかった。 あ、あ、アッシだけ?アッシだけしか視えないの?
直)牧村氏の発言には頷けるところがありました。 更に、それを聴いていたミハルさんの顔から血の気が引いていました。 思えば最初、リーダーに嫌疑を向け、ミスリードに引き込もうとしていたのは誰だったのか。 ……もしや、もしや彼女が犯人か?
宗)何だか物凄く納得のいかない理由ではあったが、 皆に冤罪だということが解ってもらえたようだった。しかし、未だ問題は山積していた。 実際問題、事件は何も進展していないのだ。拙者はこの状況を打開すべく、 皆にアリバイを訊く事にした。
蒼)「アリバイも何も、死亡推定時刻すら明確に出てないから」 僕はそう冷たくツッコミを入れた後、しかし情報を探ることは悪くないと言い、皆に訊いてみる事にした。 アリバイが駄目なら動機がある。
透)いやん。おにいたま冷静ぃぃ。 兄の横顔を見つめながら、是はウットリしていた。 最早、死んでることを忘れていた。
継)アッシは透加ちゃんに脅えながら、牧村氏の質問に対し正直に答えた。 アッシが正直になるくらい、アッシの精神は堪えていた。 リーダーにアリバイ工作をキッチリ終えているからそんなことを訊くんじゃね? というツッコミすら言う気力がなかった。 本当に、本当の意味で怖かった。 透加ちゃん、何でニヤニヤしているの?
直)この国には食べ物の恨みは恐ろしいという言葉があるようです。 長旅の経験がある乃公には、その感情が少なからず解りました。食べ物は生きる上で大切なのです。 けれど……けれど、ミハルさん。 お菓子で殺人やりすぎです。
宗)とんだ赤っ恥をかいた。アリバイとか得意げに語った数分前の自分を窘めたかった。 泣きっ面に蜂の如く事態自体も良い展開は見せなかった。 ……再び嫌疑が掛かりそうなほど、拙者には誰より明確な動機があった。 パシリーダー。名付け親の名は透加女史。
以下、続。